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2006年6月13日 (火)

「さまよえるオランダ人」序曲をめぐって(2)

ワーグナー作品の「筋書き」に納得していなくても、どうしてもその音楽にはひかれてしまう、そんな人は少なくないでしょう。
これには彼の「動機」処理の巧みさが大きく作用しているものと思います。
ワーグナーの作品解説には必ず「指示動機」という用語が出てきますし、これが劇中で「誰または何」を表すかも明示されています。
そのおかげで、生であろうとCDやDVDであろうと、これから聴こう、見ようとしている作品のあらすじ、「指示動機」のふたつを頭に叩き込んでおけば、セリフが分からなくても劇の起伏・クライマックスがよく理解出来る・・・反ユダヤ主義の元凶的思想の持ち主でもあり、そこをナチスに利用もされたほどの人物でありながら、その作品がなお国際性を保っていられる大きな理由は、ワーグナー一流の「指示動機」の技術と、もうひとつ、少し意地悪に言えば、「オランダ人」以降に貫かれている、どこか杓子定規的な、ならせば平らになる「筋書き」のおかげだと言ってもいいのではないでしょうか?・・・こんな悪口を言っても、ワーグナーが天才だったことは全く否定出来ませんけれど。
ワーグナーは終生、ベートーヴェンを熱狂的に尊敬しましたが、動機の発展に関しては「オレはベートーヴェンを超えた」という自負を、もしかしたら持っていたのではないでしょうか? それを表明した、という話だけは、少なくとも私は知りませんが、さすがにそこまで言うと顰蹙を買う点くらい計算していたかもしれません。
ともかく、「さまよえるオランダ人」に限って言えば、ヴォーカルスコア上に凡例として掲載している指示動機は全部で29あります。ですが、そのうち、序曲に用いられている主要な10の動機(ほぼ3分の1)を除けば、他は副次的な場面の雰囲気作りの為であるか、あるいは主要10動機の何らかの変形に過ぎません。
したがって、「さまよえるオランダ人」全体を感得するにも、序曲に現れる10の動機、およびその順番を抑えておけば充分なのではないかと思います(以後の作品になるとこうは行きません。「序曲」は劇中の動機を用いたとしてもあらすじを標題的に表したものではなくなっていきますし、「指輪」と「パルジファル」になると、さらに抽象度が高まるからです)。

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