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2006年6月15日 (木)

定家と千載和歌集(7)

まず「本歌取り」ということについてですが、これが私のような素人にはなかなか理解できません。定家の歌論などにも、比較的平易にまとめた『毎月抄』には、技法としては
「本歌取り侍るやうは(中略)その歌を取れるよと聞ゆるやうによみなすべきにて候。本歌の詞をあまりに多く取る事はあるまじきにて候(以下、その説明と例示)」
というものだとありますが、背景にある精神は次のようなものだと述べています。
「古きをこひねがう(=あるべき姿だと思う)にとりて、昔の歌の詞を改めずよみすゑたるを、即ち本歌と申すなり」(『近代秀歌』)
うーん、分かるようで分かりません。なんでわざわざそんなことをする必要があり、しかもわざわざ技法として打ち立てなければならなかったのでしょう。
歌論に立ち入る力量もなければ、それらをまだきちんと読んだこともありませんので、現状では深く考えられませんけれど(『明月記』に深入りするほど、しかし、きちんとやる必要には迫られていくものと思います)、小学館の新日本古典文学全集87『歌論集』の解説をあてにして、とりあえず浅く述べておくならば、定家は「本歌取り」によってもたらされるオリジナル(本歌)の視覚的イメージの喚起こそが作歌を徒らに情趣的方向へと流れさせて締まりなくするのを避けるには有効だ、と述べているのでしょうか(だからこそ、「その歌を取れるよと聞ゆるやうによみなすべき」、即ち本の歌はこれだな、と分かるようにしておかなければならない、とも言っているわけです)。
そして、その映像的効果の高い価値を見出したのは、ほかならぬ父、俊成だったのです(「歌論集」解説596頁を安直に参照しました)。



歌論集 : 俊頼髄脳, 古来風躰抄, 近代秀歌, 詠歌大概, 毎月抄, 国歌八論, 歌意考, 新学異見 新編日本古典文学全集 (87)


歌論集 : 俊頼髄脳, 古来風躰抄, 近代秀歌, 詠歌大概, 毎月抄, 国歌八論, 歌意考, 新学異見 新編日本古典文学全集 (87)


著者:橋本 不美男

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勉学が成就しつつあり、年齢から言ってもスタミナ旺盛な息子、定家の歌を8首採用し、しかもその半数に「本歌取り」の作品を選んだところに、父の意図が読み取れる、と言ったら言い過ぎでしょうか。

さて、「後拾遺集」哀傷からの2つの本歌は、それぞれに特徴的なものです。
1113の本歌(内侍)は、
558:惜しまるる人などかくてなりにけん捨てたる身だにあればある世に
というもので、出家の身の内侍が、俗人として亡くなった親戚を悼んだものです。この歌そのものだけなら何ということは無いのかも知れませんが、これを本歌にした定家の作が「二見浦百首」所収だというところがミソではないかと思います。「二見浦百首」は、西行の呼びかけで編まれたものだからで、定家が西行をイメージしながら、なんとか詠もうと努めたのではなかろうか、と感じられるからです。「二見浦百首」の中で定家の歌は述懐を五首詠んでいますが、撰入歌はそのうちの二首目に当たります。ついでながら、定家の、撰入歌該当作の、「二見浦百首」中での前の歌は
「見しはみな昔にかはる夢のうちにおどろかねるは心なりけり」
後の歌は
「みるもうし思ふもくるし数ならでなどいにしへを忍そめけむ」
というものです。

もう一つの本歌は、異様です。亡霊の歌なのですから。
「しかばかり契りしものを渡り川帰るどには忘るべしやは」
この歌は、読み手の藤原義孝が、死後しばらくして、その母の夢に出てきて詠んだ、とされているものです。義孝は一条摂政の子息と血筋が良いだけでなく、美男で有名でしたが、974年に二十歳で早世し、世人の涙を誘ったとのことです。ところが、死後、その霊が歌を詠んだ、ということで有名になり、噂はたちまち広まったらしく、(いま原典は敢て参照しませんが)『大鏡』にも『今昔物語』にも噂が説話化されて載っているとのことです。
ただ、定家の場合、これの「二見浦百首」の中で詠んだ作品だ、ということは考慮しておく必要があるでしょう。なおかつ、一種の怪異譚として有名な話に結びつく歌を本にしながら「恋」の歌に変貌させているところ、定家の自負と機知の愉快な重なり合いが見えるところに、西行だけでなく、父、俊成にも「ほほう」と思わせる勢いがあったのではないかとさえ思われます。

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