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2006年6月28日 (水)

K.34,35,36,38 短い帰郷の間に(2)

K.35 "第一戒律の責務"

(この記事、誤りがありますので後日修正します。)
K.35とK.38は私は対訳等を持っておらず、また、初期作品は「大いに参考になる」ような日本語書籍がないため、スコアからタイプしたり苦手な辞書を引き引きして台本を読みました。読み誤りがあるかもしれません。修正すべきお気づきの点がありましたら、是非ご教示下さい。

"第一戒律の責務"は1767年3月12日に初演されました(ヒューバーの日誌、ザルツブルク大学付属ギムナジウムの日誌に記録が残っています)。
この作品にまつわる伝記的な逸話については、ここでは言及しません。
新モーツァルト全集 I/4/1[TB3]にこの曲の装飾音やカデンツァをどう歌うべきかが掲載されていますが、その点も触れません(鑑賞や演奏の際には有益な情報です)。

アリアの調性、レシタティーヴォのなかでのキャラクターの動きを、以下に並べてみます(最初のレシタティーヴォのみ、転調の巧みさを観察する参考に供する目的で調性の変化にも触れておきます)。

<台本>
ドイツ語

<登場者>
()内のアルファベットは、構成を示す際に使用する略号。
Barmherzigkeit[慈悲](Bk):Soprano
Gerechtigkeit[正義](Gk):Soprano
Weltgeist(Wg)[世界精神]:Soplano〜高橋英郎氏によれば「世俗精神」
Christgeist(Cg)[キリストの霊]:Tenor
Christ(C)[キリスト(の肉体)]:Tenor〜高橋英郎氏によれば「信者」

<物語と音楽>
「慈悲」と「正義」が「キリストの霊」に、世の中にはクリスチャンの道徳を守っている人が殆どいないのではないか、と問いかけます。「キリストの霊」は、それではやれるだけのことはやってみよう、と請け合い、深い眠りについていた彼自らの肉体を目覚めさせます。
運悪く、その場に「世界精神」が通りがかります。「キリストの霊」からすれば、こやつはとんでもない怠け者の厄介者なのです。
案の定、急に起こされた「キリストの肉体 」は、その不幸を嘆きますが、それを「世界精神」が慰めて言います。
「全ては夢なんだぜ。だから毎日をおキラクにすごさなくっちゃ。食って、飲んで、遊んで、狩って、とかさあ」
「キリストの霊」はこの光景に堪えかね、医者に変身して自分の肉体の前に現れます。「キリストの霊」と「キリストの肉体」の会話はカウンセリングと化し、自ずと道徳の方へと向いていきます。
「とんでもねえ」
と「世界精神」が会話に割って入ろうとしますが、二人は耳も貸そうとしません。しかたなく「世界精神」は立ち去りますが、去り際に
「この医者はきっとヤブだぜ」
と言い置いていきます。
最後は「キリストの霊」が「慈悲」と「正義」との3人でカトリックの道徳を謳歌し、大団円。

・・・以上がヴォルフガングの作曲した部分ですが、これには第2弾、第3弾があり、それぞれミヒャエル・ハイドン、アドルガッサーが作曲したことが分かっています。遺憾なことに、M.ハイドンとアドルガッサーの作曲したものは残っていません。

音楽はsinfonia,と7つのアリア、最後の三重唱からなっていて、間にレシタティーヴォが挟まれています。アリアは第6番を除いて、あいかわらずダ・カーポアリアです。

Sinfonia:C dur , Allegro[4/4],90bars. 2Ob,2Fg,2Cor and Strings(with 2 viola section).二部形式

Recitativo(secco):[Gk]D dur-e moll-a-D-[Cg]B-Es-c-[Bk]c-[Cg]b-[Bk]B-[Cg]C-d-e-G-a-E

No.1 Aria[Cg]:C dur, 78bars Allgro[2/2],middle part is F dur ,20bars Andante[2/4].

Recitativo(secco):[Bk]-[Gk]-[Bk]-[Gk]-{Bk]-[Bk]-[Gk]-[Bk]-[Gk]

No.2 Aria[Bk]:Es dur,62bars Allegro[4/4],middle part is C dur, 22bars Andante[2/4].

Recitativo(secco):[Bk]-[Gk]-[Cg]
Recitativo(acomp.):[Cg]-[Bk]-[Cg]-[Bk]-[Cg]
Recitativo(secco):[Cg]-[Bk]-[Cg]-[Bk]-[Gk]-[Cg]

No.3 Aria[Gk]:A dur 98bars Andante[2/4]-6bars Allegro-12bars Adago-9bars Allegro, the return to the first Andante(90 bars).

Recitativo(secco):[Cg]-[Bk]-[Gk]-[Cg]
Recitativo(acomp.):[C]
Recitativo(secco):[Wg]-[C]-[Cg]-[C]-[Wg]-[C]-[Wg]-[C]
Recitativo(acomp.):[C]
Recitativo(secco):[Wg]

No.4 Aria[Wg]:F dur, 239bars Allegro grazioso[3/4],bars110-141 are B dur.
Recitativo(acomp.):[C]

No.5 Aria[C]:Es dur,197bars Andante un poco Adagio[2/2], middle parts are bars93-129.

Recitativo(secco):[Wg]-[C]-[Wg]-[Cg]-[Wg]-[Cg]

No.6 Aria[Wg]:G dur, bars1-70 are Allegro[4/4], 71-80 are Andante, 81-133 are Allegro, 134-150 re Andante[3/4] ,then 151-157 are Allegro[4/4].

Recitativo(secco):[Wg]-[C]-[Wg]-[C]-[Cg]-[C]-[Cg]-[C]-[Cg]-[Wg]-[C]-[Wg]-[Cg]-[C]-[Cg]

No.7 Aria[Cg]:B dur,266bars Allegro[2/2]. middle part is bars130-167 , but the theme is not change from the main part.

Recitativo(secco):[C]-[Cg]-[C]-[Cg]-[C]-[Cg]-[Wg]-[C]-[Cg]-[Bk]-[Cg]-[Gk]-[Cg]

No.8 Terzetto[Cg,Bk,Gk] 1-140 :D dur, Un poco Andante[2/2], 141-180: G dur,Andante grazioso[3/4](Cgのsolo) , 181-320:D dur, Un poco Andante[2/2]

D-C-C-Es-F-Es-G-B-D(G)Dという造りです。
No.4(「世界精神」のアリア)の「ヘ長調」という飛び出た扱いが、「世界精神」の性格を現わしているようで面白く思われます。

ヘンデルや大バッハのオラトリオなどと同じような雰囲気を期待してこの作品を聴き始めると、ビックリ仰天するハメに陥るでしょう。最初から最後まで、音楽が徹底して無邪気に陽気だからです。(ちなみに、サリエリが書いた「マタイ受難曲」にも、序曲だけ聴くと同じ驚きにあわされます。ところがこの受難曲、初演から結構長い間、非常に評判の良い作品でした。)
それでも、登場人物の名称が象徴的なことは、オラトリオの嚆矢となったカヴァリエーリの「魂と肉体の劇」を想起させます。このことは、ヴォルフガングの「第一戒律の責務」もカトリック作品の伝統の正当な後継者であることを示唆しています。(カヴァリエーリの「魂と肉体の劇」も、厳粛に始まりこそすれ、途中に民衆音楽的な要素を豊富に取り入れた面白い作品で、1600年当時ローマで大ヒットした理由がうなずけます。国内盤はないようですが、お見つけになったら是非聴いてみて下さい。私の持っているCDは、Alpha 065という2枚組のもので、2003年の録音です。)

付記しますと、「第一戒律の責務」ではレシタティーヴォが「キリストの霊」によって単独で歌われる場合のみオーケストラ伴奏となります。大バッハの受難曲と同じ手法です。ヴォルフガングは「アポロとヒュアキントス」でも、アポロが後半でその神性を顕す際にこの手法を使っています(「アポロとヒュアキントス」の方ではこの点に触れません)。

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