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2006年5月17日 (水)

メヌエット問題!:4 意外な素性

メヌエットはほんとうに得体の知れない「舞曲」です。
調べていくと、
「発祥はフランスのポワトゥ地方のブランル」(アーノンクール「古楽とは何か」他)
とあるのが真実臭く見えます。ブランルは既に16世紀には踊られていたらしく、当時の編曲物が残っています。
ブランルは、2・4拍子の偶数拍子系と3拍子系の2種類があるそうで、2拍子系のものはガヴォットの前身です。
耳にしてみたり譜例で見た数少ない例には、4拍子で始まり、後半部が3拍子というブランルもありました。このブランルの、3拍子の方が、17世紀中葉のある日突然、「ムニュmenu」とか「ムネmener」という呼び名で、リュリによってルイ14世の宮廷舞曲に昇格したとさているのです。・・・突拍子もなく「メヌエット」に変身してしまっている。
しかも、変身すると同時に、メヌエットは高位貴族によって踊られる格調高い舞曲として位置づけられます。メヌエットはデビューしたときから、庶民とは縁遠い地位を与えられたわけです。
「ほんとうにそうかなあ」と疑って、「ムニュ」ないしは「メヌエット」の名前で演奏された作品の、リュリよりも古そうなを探してみました。
たった1つ見つけた例は、スペイン人ギタリスト、フランチェスコ・コルベッタ(1556-1663)のもの。ただし、この人はイタリアやフランス、イギリスを遍歴して活動した音楽家で、少年時代のルイ14世にギターの手ほどきをしています。ですので、メヌエットの発生した場所はルイ14世の宮廷ではなかった、という可能性は、この人からは見出せません。ただ、没年から考えて、コルベッタは少なくともリュリに先駆けてルイ太陽王にメヌエットというものを知らしめた可能性はあります。
さらに、先の「メヌエットの前身はブランルだったのではないか」という流布説の中で、興味深いのは、それが「ポワトゥ地方のブランル」だったと考えられている点です。
ルイ14世の宮廷に取り入れられた舞踊は、その摂取に高い政治的意味があった、との考察があります(古山和男氏「古楽と古典舞踊」、現在webに掲載)。その考察によると、宮廷舞曲とされたものの発祥の地は、どれもフランス辺境に起源を持っています。辺境となれば、当然、隣国との境界争いの場だっただろうと推し量ることが出来ます。そうした土地の舞曲を宮廷で踊る・踊らせることは、国境へのフランスの領土権をアピールすることにもつながった、と、古山氏の推論はそんなふうに読めます。
ポワトゥ地方は、先代の王ルイ13世の時代後期に、強制課税に反発して大規模な反乱を起こした地域です。その地のブランルが、もともとの素朴な衣装を気品ある落ち着いたものに様変わりることで「王家の品格を代表する舞曲」に昇格したのも、「領土」をアピールするルイ14世のパフォーマンスの成せる業だったと考えてよいのかも知れません。



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コメント

Kenさん

拙記事へのコメントありがとうございます。m(_ _)m

番組では、クープランのクラブサン版をかけたあとで、ギタリストの鈴木大介さんが「もうこの時代には器楽曲として演奏されはじめ、じっさいにこの曲で踊っていたわけではない」とおっしゃっていました。

スケルツォについては繰り返しになりますけれども、マドリガレ起源で舞曲とは言えないようですね。調子のいい鍛冶屋ならぬ歌ないし楽曲のひとつだったと考えるのが妥当ですよね。

今年もまたいろいろと教えてくださいね。

投稿: Curragh | 2008年1月15日 (火) 04時30分

Curragh さん、こちらこそありがとうございます。

起源について忘れられた、あるいは意識されていない音楽については、「音楽史」の情報だけでは正体がつかめませんね。
Curraghさんのように、中世史を多方面にご存知な方でないと、分からないんだろうなあ・・・

いっぱい、いっぱい、教えて下さい!

今年も宜しくお願い申し上げます。

投稿: ken | 2008年1月15日 (火) 19時44分

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